-「MORI」より-

 気がつくと夢だった。いや夢の中だったというべきか。
 これが夢である理由はただ一つ。他にもあったのかもしれないけど、でもこれが絶対的な理由だった。そう、僕の目の前には一人の少年がたっていて、そして、彼は僕だったのだ。「君は誰だい?」
「僕は君さ」
一昔前のSFかファンタジーか?そんな会話が成立していた。確かに彼は僕だった。じゃあ、僕は誰だ?僕も僕であるはず。
 たいした間をあけることもなく次に口を開いたのは僕だった。
「・・・ありきたりだなあ」
「じゃあ、そうでないことにしよう。僕は君ではないよ。そしたら君は誰なんだい?」
そうだった。彼は僕だし、また僕も彼だったのだ。彼が僕であるから、僕は僕であり得る。彼が僕でなければ、僕も僕はなくなってしまうのだ。「・・・」
沈黙を取るしかなかった。なにも思いつかなかったのだ。ここにいることは自分にとって善か悪か。そんなことさえ全く見当もつかなかった。だから、なにもできなかった。なにかしようというそんな目的を見つけることができなかったから。
 やっとの事で、口からできたのはこれもまた月並みの言葉だった。
「・・・これは夢さ」
彼は僕の遥か後方を見つめながら、何気ない様子で淡々と言葉を発していた。
「そう。でもこの夢が覚めた現実を夢でないと誰が言える?」
これを恐怖とよんでよいのだろうか。それは誰にもわからないことかもしれない。僕自身、恐怖を感じたかといえばそうではないような気もする。ただ言えることは、もうなにも言えなくなってしまったということだけだった。「・・・」

 夢から覚めた僕は筆を執った